「 お母さんの工夫—モンテッソーリ教育を手がかりとして 」
相良敦子・田中昌子 共著 文藝春秋社刊より
ここでは一つの代表的なモンテッソーリ校を例に、幼児期にモンテッソーリ教育を受けた人に特徴的な姿を抽象的に要約してみます。ここにあげる項目を見ると、素晴らしい側面ばかりなので、なんだか都合のいい「作り話」だという印象をもつ方もあるかもしれません。
ちなみにこれは梶山モンテッソーリスクールの卒業生のデータです。梶山モンテッソーリスクールは、日本にモンテッソーリの三大著書を翻訳紹介した鼓常良氏の令嬢、洋子氏が夫君の川村祐一氏とともに一九七四年に開校。ここには、モンテッソーリ教育が備えるべき条件がすべて整っているばかりか、精魂こめた努力で脈々と積み上げられてきた尊い実績が息づいています。ある意味で、日本におけるモンテッソーリ教育の代表的な実践校なので、そこの卒業生たちは特別だといえるかもしれません。しかし、他のところでも共通の特徴は確実に現れているのです。
- 【 人 格 】 にかかわる面
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・自分で判断し、自分の責任で行動する
・自分の考えをしっかりもっている
・自分なりの表現をする
・自分の行動や態度に自信がある
・マイペースである - 【 生 活 】 にかかわる面
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・生活のリズムを規則正しく実行する
・時間を効率よく使う
・忘れ物をしない
・挨拶がきちんとできる
・人前で堂々と振る舞う
・食事の仕方がきれい - 【人間関係】 にかかわる面
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・人の話をしっかり聞く
・他の人の立場を考える。思いやりがある。
・困っている人をたすける。できない人にていねいに教える。
・まわりのひとのことによく気がつく
・どんな人とも仲良く過ごそうと努力する
・共同の活動では、誰とでも協力し合う
・人のために奮闘する
・積極的に友達をつくる
・友達に対して公平。友達にやさしい。一人ひとりを認め、
大切にする
・ユーモアがあり、人を楽しませることが好き
・友達から信頼される。人気がある
・友達のまちがったことに対しては、きちんと注意できる
・注意されると素直に聞き入れる
・いじめにめげない
・みんなの考えをよくまとめる。司会進行役をよくする - 【 仕 事 】 にかかわる面
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・物を作るのが好き
・労をいとわない
・与えられた仕事を工夫しながら楽しんでする
・最後まで粘り強くやり抜く
・ていねいにする。きちんとする。物を大切にする
・計画性がある - 【 学 習 】 にかかわる面
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・授業中によく聞く。集中して聞くので、その時間に理解する
・次に何をするのかがわかっていて、確実に取り組む
・意欲的に学習に取り組む
・真剣に学習する
このように「人格」「生活」「人間関係」「仕事」「学習」の面で望ましい姿があります。私が日本各地から集めたデータの中には、これらと全く共通のことがたくさん述べられていました。ここでは、たまたま取り出したわずかな報告をもとにまとめましたが、もっといろいろな特徴があげらられます。特に、学習面で具体的な共通項がはっきりしています。たとえば、数学的センスがあるとか、言語能力が豊かだとか、スポーツでめざましい記録を出すとか、習いごとするときに正確に早く習得するなどです。
ここで注目すべきことは、モンテッソーリが「幼児自身が自分を仕立て上げて、私らに見せてくれない限り、うかがいしれなかった」という人間の美質が教育によって立ち現れたのだということです。ここに列挙したほどの豊かな人間の側面を、机上の教育学では、どんなにがんばっても語ることはできません。実に人間の中に「埋もれていた高い資質」「隠されていた可能性」がモンテッソーリ教育によって現実のものとなったのです。モンテッソーリが最終的に平和のために役立てようと教育の目的にしたことは、このような人間の力でした。