人間が幼児期をどのように生きたかが、その人間の生涯にとって極めて重要であることは、今日の人間学や心理学が明らかにしているところです。が、まだ一般に子どもを大人によって教えこむ対象として考える傾向が強くあり、子供が接する環境の重要さに対しての認識が浅く、したがって環境を整えることに対する配慮が極めて不十分・不徹底であると申しても過言ではありません。
人間の家族の中で育てられたライオンのエルザは、いくら教育を施しても、ライオンとしての本性を失わず再び野生に戻ることができたと言いますが、生まれて間もなくオオカミに拾われて育てられた二人の少女は、発見されて人間社会に連れ戻されたが、遂に人間社会に適応できず死亡してしまった事からも、人間と動物には本質的な違いがあることがわかりましょう。
カントの言葉を借りれば「人間は教育によってはじめて人間となる」「人間は教育されなければならない唯一の被造物」であり、言い替えれば人間だけが無限の創造性を備えており、自分自身の人格を自らの手で創造する権利を与えられているのです。そしてその権利を子どもが正しく行使できるためには、子どもに与えられる環境が適切でなければなりません。